鉄板 清水 おもわず襟を正してしまう。そんな料理とシェフの佇まい。
「今日はなにかの記念日ですか?」
「結婚記念日なんです!」
カウンターに座ると尋ねられた。
まずは飲み物を。
妻は白ワイン、自分は赤ワインをお願いする。
店はこの人が一人で切り盛りしている。
目の前にあるのは綺麗にされた鉄板。
でっかいフォークみたいなのに研ぎ澄まされた包丁。
丁寧に剃られた髭の跡のない顔。整えられた髪。
皺のないクラウン帽。手入れのされた指先。
厨房にすっと立つその姿に矜持を感じる。
鉄板に油を敷くと素早く広げていく。
頃合いを見て材料が鉄板に載せられる。
動きに一切の無駄を感じない。
厨房内のいろいろなものが目を瞑っていても取り出せる雰囲気。
ゴルゴ13がシェフだったらきっとこんな感じだと思う。
最も危険なゲームという小説の一部を思い出す。
「・・・・・『もちろん、射撃の経験はおありですね。すぐわかりますよ』『ずっと以前、遠い昔のことですよ。全くちがった目標でしたがね』『よろしいですか?』と彼がたずねた。銃身をあけて渡すのが作法であることを思い出した。彼が弾をこめた。あき缶を空中に投げ上げると、彼はこともなげに撃ち落とした。かんたんである。しごくあっさりしたものでとくにどうという射撃スタイルではない。スタイルというのは見世物ようだ。名人上手はただ狙って撃つだけだ。」
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〆はガーリックライスをお願いした。
食事を終えると窓側のテーブルに案内され、コーヒーを淹れてくれる。
「ありがとうございました。」
「ごちそうさまでした。また、来ます。」
大門通りを真間山の方へ向かい、すこし散歩をして帰ることにした。
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