Bar ROBROY 本八幡本店

しんどくてタフな打ち合わせが夜遅くまで続き、こんな気持と顔のまま家に帰って、家族と顔を合わせたくないなって思う時がある。だから、そういう時には酒の力を借りて、気持ちをスイッチしてから家に帰るのだ。

「ワイルドターキーをダブルで、氷を入れてください、オレンジビターがあったら少し振ってください。あと、チェイサーに水をお願いします、氷は入れないで。」

このバーでクダを巻いている人、口説かれるために夜遅くまで飲みたくない酒を飲んでいる女性は見かけたことがない。静かに柔らかく談笑している、という人が多い。

“ ぼくは店を開けたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだきれいで、冷たくて、何もかもぴかぴかに光っていて、バーテンが鏡に向かって、ネクタイがまがっていないか、髪が乱れていないかを確かめている。酒のびんがきれいにならび、グラスが美しく光って、客を待っているバーテンがその晩の最初の一杯を振って、きれいなマットの上におき、折りたたんだ小さなナプキンをそえる。それをゆっくり味わう。静かなバーでの最初の静かな一杯、こんなすばらしいものはないぜ ”

レイモンド・チャンドラーが「長いお別れ」という小説の中でテリー・レノックスという人物にこう言わせています。Bar ROBROYはこんな素敵なくだりを思い出してしまうような、そういうアトモスフィアのある空間です。

「長いお別れ」は清水俊二さんが最初日本語にされて、その後、ずいぶん経ってから村上春樹さんが日本語にされています。読み比べると主人公のフィリップ・マーロウのキャラクターがだいぶ違うので面白い。清水さんのマーロウはちょっとやんちゃな感じ、一方、村上さんのマーロウは折り目の正しい大人っていう雰囲気。自分は清水さんのマーロウのほうが好きです。

ちなみに「タフでなければ生きていけない、やさしくできなければ生きていく資格がない」”If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive. If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.”という有名な台詞は「プレイバック」というチャンドラーの小説に出てきます。

「あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなにやさしくなれるの?」と訊かれた時のマーロウの答えがこれです。

一部では「タフでなければ生きていけない、やさしくなければ生きていく資格がない」と書かれているところもありますが、チャンドラーは“If I couldn’t ever be gentle”と書いているので「できなければ (couldn’t)」という方が原著に忠実だと感じます。

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