春を待つ、雨のいすみ鉄道。 第二五之町踏切
普通列車に乗って旅をするのは楽しい。
いすみ鉄道のいすみ線はJR外房線の大原駅から上総中野まで、そこで小湊鉄道線と接続して今度はJR内房線の五井まで接続し、いすみ鉄道と小湊鉄道で房総半島を横断する形になる。
房総半島は三方を海に囲まれているが、この2つの鉄道に乗って半島の平野部から山あいの風景を楽しみ、駅舎や車両の雰囲気を味わい、両路線とも地元の方々の日常の足として活躍しているので、異邦人気分で乗っていても、折にふれる地元の方々との交流がとても楽しい。
この第二五之町踏切はいすみ鉄道の路線の中でも大変人気のあるポイントだと、いすみ鉄道の広報の方から教えていただきました。春、菜の花や桜が咲く季節はもちろんだけど、夏の夕暮れ、冬の早朝、まれに雪の降った時などは、いすみ鉄道ファンや鉄道写真を撮るのが好きな方たちで賑わうという。当日は生憎の雨だったけれど、この踏切のそばで通過する列車を待っている時、その人気の端に触れることができた気がする。
特に朝方、五井駅で手作りのお弁当とお茶を買い、通勤や通学の乗客に混ざって途中下車を繰り返し、大原まで乗り継いでいくのは、非日常と日常の狭間を行き来しているみたいで、同じ房総とはいえ、上総中野を超える辺りで光がガラっと変わるので内房と外房の雰囲気、東京湾と太平洋の波の違いを肌で感じる小旅行を楽しめた。
いつだったかフランスのパリからイタリアのミラノまで普通列車で行った事があった。
列車の席も車両の前後に長いタイプではなく、四人がけの二人ずつ向きあう形のものなので、自然に隣近所の人たちと交流が始まる。これから花市場に行くおばちゃんや、馴染みのお得意先をめぐる行商の大きな荷物をもったおばちゃんたち。この時周りを見渡すと不思議とおばちゃんばかりだった。
特急であっという間に目的地に着くわけではないので、一駅ごとにおばちゃんたちと仲良くなり、互いの四方山話に花が咲き、お昼を過ぎた頃にはみんなからお弁当を少しずつ分けてもらったりする。
そのお弁当、おにぎりとか玉子焼きではもちろんなくて、手作りの鳥レバーのパテや、朝、焼いたばかりというとてもとても硬いパン、自家製のチーズや保存のための灰が付いたソーセージに不揃いのみずみずしい果物。それらをちょっとずつ新聞紙やなんかの箱の上に乗せてもらって賄ってもらった。
どれもこれも普段口にしているものとは違い、味が濃くて美味しかったのが思い出に残っている。
そして不思議だったのはフランスからイタリアに入った時、光が全然違って見えたのだ。パリのなんとなくどんよりとアンニュイな気持ちになる光がフランスの国境を超えた途端、いきなり極彩色の派手な光になったように感じた。自分のような部外者にはこの光の違いに両国の国民性の違いを感じた気がした。
いすみ鉄道のホームページを見ていて面白かったのは「いすみ鉄道までの交通」というページがあって、そこにはお車でお越しの方、電車でお越しの方、バスでお越しの方とそれぞれの交通機関に応じて詳しい説明があったこと。※いすみ鉄道交通アクセス
いすみ鉄道は上総中野で小湊鉄道と連絡し、大原で今度はJR外房線とつながる、房総半島の半分を横断している鉄道だ、ということはつまり、いすみ鉄道にとって線路の敷いてあるところすべてが観光地ということも言える。房総に行って観光協会や役所の方と話をしていて一番感じるのがここ、縄張り意識というか、線を引いたとなり町のことは知りません、というものだ。
でも、遊びに行く人は◯◯町に遊びに行き、隣の△△市でごはんを食べ、泊まるのは□□町の旅館なのだ。観光客の視線と行動に眼差しを向けた、ユーザーファーストな観光施策をできるように活動していくべきではないかと感じることも時としてある。
いすみ鉄道の路線図を見ながら線路沿いになぞっていく、このあたりは桜並木、桜の季節、きっと素敵なことになるんでしょう。
ブリティッシュ・エアウェイズという航空会社がある。イギリスのフラッグキャリアにして、ヨーロパでは3位、世界では9位の規模を持つ航空会社であり、英国航空とも呼ばれている。そこへ30歳の時に入社し、2009年、経営立て直しを図るいすみ鉄道の社長が公募され、123名の中から選ばれたのが、先代のいすみ鉄道社長の鳥塚亮氏である。
鳥塚社長、ブリティッシュ・エアウェイズに勤務していた時は旅客運行部長として運行業務や旅客サービス業務に携わり、経費削減が評価され、また、副業として始めたパシナ倶楽部で鉄道の運転席から撮影した映像をDVDとして販売、経営手腕をかわれていすみ鉄道の社長に選ばれた。社長に就任後は、訓練費用自己負担運転士やムーミン列車の運行などの経営活性化策を実行している。鳥塚氏は自分を子供の頃からの鉄道マニアと称している。
ウィキペディア
いすみ鉄道に乗って車窓から流れていく景色を眺めていても、風光明媚なものはなんにもない、田畑が広がっているだけ。
いすみ鉄道の車窓からは日本の田園風景をつくろう、としたら、多くのひとがこういう景色をイメージするだろうという風景が広がっている。だから見ていて疲れないのだ。のんびりと一駅ごとに停まり、走り、揺れ、また停まる。
橋を渡るムーミン列車。ちなみに2019年3月末でオシマイみたいです。3月中にさよならイベントがあるらしいです。毎日新聞ニュース
大量輸送に効率が良いのはベルトコンベアとトレーサである。一方は鉄道であり、もう一方は自動運転。一本の線路を使って大量輸送のために正確にダイヤを運行、通過駅での時刻も秒単位で正確に管理する、そういうのが現代の近代的な鉄道輸送のあり方だとすれば、いすみ鉄道はその対極にあるように感じる。(※いすみ鉄道のダイヤが正確でないということではありません)つまりなんにもないがあるというのが、いすみ鉄道の観光資源としての最大の強みなのではないかと思う。
いすみ鉄道にはそのなんにもない風景を眺めながら食事ができるプランもあるそうだ。
レストラン・キハというのがそれで、イタリアンや伊勢海老特急というものが企画されている。
僕、てっちゃんじゃないんですが、いすみ鉄道を追いかけているうちに可愛くなってきてしまいました。
第二五之町踏切で列車が来るのを待つ間。春を報せる雨がとても激しく降っていました。
いすみ鉄道の心象風景を映像にまとめてみました。
いすみ鉄道 ホームページ