#11 人生には雨の日だって必要なんだよ、ね。

「枝豆をね、育ててるんだよ。」
「はっ?」
「ベランダでさ、やってるわけ、この季節ビール飲むときの必需品でしょ、買うと高いんだよ、一和600円とかしてね。」
「んで?」
「うん、あれ大豆なんだよね、だから最初はもやし、ひょろひょろっとしててさ、自分で自分を支えられないの、茎が頼りなくて。」
「ほぉ。」
「だから双葉から先が伸びてきた頃に盛り土をしてあげるんだよ茎の周りに。」
「へぇ。」
「そうしてさ、かんかん照りつづいている間はぐんぐん伸びるの、ジャックと豆の木とはよく言ったよ、そんな勢いで伸びるのさ。」
「成長早いんだ。」
「そうそう。」
「で? それが佳代子ちゃんの登場頻度とどんな因果関係がある。」
「そう急くなって。このまま伸びるのばっかりかな、と思っていると、天気だってかんかん照りばっかりじゃないでしょ。」
「そりゃあ、雨だって降るわな。」
「ご明察!曇りの日を境に茎が太くなり始める。」
「そりゃすごいね。」
「大発見だろ。」
「さすが小学生の時、なぜか理科だけはいつも5だったやつは違うね。」
「ですよ、この観察力。」

生レモンチューハイってやつを二つ頼んだ。

「だからさ。。。」
「はいはい、わかってますよ。」

半分に切られてるレモンを搾り、チューハイに注ぐ。

「俺にとっての佳代子先輩は曇りなんだよ。」
「奈津美ちゃんとの愛を育むためのか?」
「きっとそうなんじゃないかって、おまえに尋ねられて思った。」
「なんか都合のいい話だな。」

チューハイを一気にグッと飲む、には、入っている氷がでかすぎた。
思わず口の端からこぼれた。

「おいおい子供じゃないんだから。」
「すまんすまん、しゃべるとのどが渇く。」
「ところで、Dデーは海の日か。」
「ばかいってんじゃねーよ。」
「さっき勝負パンツ買ってましたよね。」
「フロスト知ってるか、ロバート・フロスト。」
「ああ、詩人だろ。」
「愛と希求がひとつになって」
「業が命を賭した勝負であるとき」
「初めて行いは真実となる」
「神と将来のために」

愛と希求がひとつになった時、俺は奈津美を腕に抱くんだ。

「でもあれ、野球について書いてるんだよね。」

「おまえ自分で言うなよ〜、感動してたのに。」

明けて月曜日。

ご多分にもれず会社に行くのがかったるい素敵なマンデー。
勝負パンツをはいて出社した。

なぜかって?

サラピンはダサイでしょ、いかにもって感じで。
あの白州次郎だってロンドンのヘンリー・プールで仕立てたスーツを
軒下に何年か吊して、ちょっとよれよれにしてから着てたって言うじゃない。
日本一の伊達男の真似をしないで誰を真似るのさってんでい、べらぼーめ。

「おはよ。」
「おはようございます、先輩、今日もきれいですね!」

今日の佳代子先輩、紺のストライプの入った生成りのTシャツに真っ白の七分丈のパンツ。
そこに限りなく黒に見える紺のテーラードのジャケットを羽織って、素足に黒のぴっかぴっかのローファーはコードヴァンですか。ポール・ウェラーも真っ青のスタイル・カウンシルなコーデですね。

ちらりと覗く足首にときめきます。

「はいはい、今週は忙しいわよ。」
「わかってますって。」
「ふーん、わかってるんならいいんだけどね。」

あっ、屈まないで、鎖骨の下のその先のまあるいものが見えそうで見えない。。。
ぐぅぅぅぅ、目がつぶれます。

「スポット単価の交渉は媒体を通して局からは内々の返事をもらっています。」
「それで?」
「GRPとアクチュアルの差分については来月以降、請求時に調整と言うことで。」
「まぁ、仕方ないか、ここのところ裏が強かったしね。」
「とはいえ一局買いで指してるわけですし、なんとかもう少し頑張ってみます。」
「いいわ、任せる。」
「っす。」

やべえ、月曜の朝から俺はなにをドキドキしてんだ。仕事仕事仕事。

「今日は外ラン?」
「その予定です。」
「ランチ、ちょっと付き合わない?」
「喜んで。でも、ワリカンですよ。」
「生意気言うわね。。。」
「この間の夜だってご馳走になったし、女性に食べさせてもらうわけには。」
「まだそんなオトコじゃないでしょ?」
「まあ、そうですが。」
「いいわよ。気にしなくていいのに。。。」

銀座に新しい業態の飲食店がオープンしたから市場調査を兼ねてランチを食べようってのが佳代子先輩の提案だった。

さっすがといいたいところだけど、いっつもいっつも仕事中心じゃね、そりゃ、オトコも寄ってきませんわね。

入る隙間ないんだもの。

ワンブロック先まで伸びる列の最後尾について中に案内されたのはそれでも30分ほどだった。
ということは回転がいいのか、食べるのが早いのか、どんなことになっているのかは見てすぐにわかった。

立ち食いなのである。しかも美味い、さらに安い、銀座でこの値段でランチは銀ブラ族にはたまらないよね。

お勧めのランチを頼み、カウンターに佳代子先輩と並んで立つ。
涼しげな目元。やわらかそうなほっぺ。そして意外に肉厚なくちびる。

「ねっ、その彼女、海に行くっていう、どんなひと?」

さあ、なんて答えようかな。
ちょっと困らせやりたい気もするし。
佳代子先輩の薄く淡い色のマニキュアが施された指先を眺めながら意地悪なことを考えた。