Time enough for love #1

「晴れるといいよね。」そう言うと彼女は電話を切った。

平日の午後、黄昏れにはまだ早い時間に待ち合わせる。
家を少し早く出てエノテカでワインを探す。
「赤がいい、あまくないやつ。」というリクエストにかなうワインを探した。

約束の場所に着きベンチで待つ。
少し遅れて彼女はやってきた。

「ひさしぶり。」
「だね。」

彼女は半袖の目の粗い糸で編まれた黒のプルオーヴァーに、プリーツの入った光沢のある黒に見える紺色のスカートを身に纏い、素足にベージュ色をしたオープントゥのパンプスを履いていた。
耳には淡い紫の輝く石がついたピアスをつけている。

瞳は少し鳶色がかり潤んでいる。
長い髪はブラジャーラインでまっすぐに揃えられ、黒に薄く栗色が混ざり艶がある。
骨格のしっかりした肉付きのよい体をしている。
笑うと口が横に大きく広がり魅力的だ。

ワインを開ける。

「どう?」
「うん、おいしい。」

沈みかけた初秋の陽が木漏れ陽となって彼女に注いでいる。
記憶と想像を超えて彼女は美しかった。

「どーしたの、突然電話くれて。」
「会いたくなったんだよ。」
「どして。」

ほんの一口ワインを含み、グラスの縁越しに自分を見つめるまなざしは、人をからかう我が儘な王女のような瞳の輝きと、それを打ち消す真摯な知性の重みがある。

「じゃあまたね、バイバイってしてから随分経ったしね。」
「そうね。」
「うん。」
「どうしてここなの?」
「おもいでの場所だから。」
「うふふっ。」

「あたし泣き虫なの、あなたのことでよく泣くの。」
そう告げられて、彼女は自分の前から去っていった。

別れを告げられたのは同じ場所、通り沿いに停めた彼女のモスグリーンのアルファロメオ・スパイダーの助手席に座っていた時。

もうすぐ八月になるというのに、未だ梅雨が明けず小粒の雨が降る午後だった。

「ぼぉーっとして、なに見てるの? 飲んでないでしょ? 少しドライブしたい。」
「いいよ。」

運転席に座り、彼女のシートベルトを確認するとイグニッションを押しエンジンをかける。
一瞬、タコメーターが跳ね上がり、アイドリングが落ち着くのを待つ。

「レディが乗ってるんだから飛ばさないで。それから・・・」
「それから?」
「今度は心を開いておいてね、あたし甘えるから。」
「心がけるよ。」

クラッチを踏み、一旦ギアをセカンドに入れてからゆっくりとローへ入れる。
クラッチをエンゲージしスロットルを踏むとノーズを西へ向けた。

彼女は隣で目を閉じ、マライア・キャリーを口ずさんでいる。